サイバー攻撃の手口は日々高度化しており、大企業や公的機関だけでなく、中小企業もランサムウェア等の深刻な被害に遭うケースが後を絶ちません。
「ウイルス対策ソフトを入れているから大丈夫」という考えはもはや通用せず、24時間365日の監視体制や、侵入を前提とした高度なインシデント対応が求められており、企業のセキュリティ対策は経営課題の一つです。
しかし、IT人材不足の中、「専門人材の確保」「24時間体制の運用」は多くの企業にとって大きな負担に。情報システム部の担当者が、他部署と兼業といった課題を抱える企業も多く存在します。
そんな「人材不足」と「高まる脅威」のギャップを埋める手段として注目されているのが、情シス業務内の「セキュリティ対策業務のアウトソーシング」です。
本記事では、セキュリティ対策のアウトソーシングとは何か、必要性から導入・運用までを解説します。
目次
1. なぜ情シスは「セキュリティ対策のアウトソーシング」が求められるのか?

近年のサイバー攻撃は巧妙化・多様化しており、企業規模を問わず「信用失墜」「業績悪化」「事業の存続」と企業を脅かす重大な経営リスクです。「ウイルス対策ソフトを入れているから大丈夫」という考えはもはや通用しません。
従来型のウイルス対策やファイアウォールだけでは不十分であり、情報漏えいや業務停止を防ぐためには、より高度なセキュリティや迅速な対応力が求められます。
- ・24時間365日の監視体制:深夜や休日問わず狙われるため、常時監視できる体制が不可欠
- ・迅速なインシデント対応(検知・復旧):侵入を100%防ぐのは困難であり、発生時に被害を最小限に抑えるプロセスが不可欠
- ・最新の脅威情報と高度な技術力:パソコンやスマートフォンなどの「エンドポイント」における脅威を検知・対応するためのセキュリティ対策や、ログを一元的に集約・分析し、セキュリティインシデントの検知・原因究明・対策を実現するセキュリティ対策が求められる
しかし、多くの中小企業では、情シスの専任担当者やセキュリティに対して高度な知識を持つ人材まで不足しているのが課題です。高度なセキュリティ体制を、すべて自社リソースだけで構築・運用することは容易ではありません。
1-1. サイバー攻撃の増加で情報セキュリティ対策の必要性が高まっている
近年、企業を狙ったサイバー攻撃はますます高度化しており、ランサムウェアやフィッシング詐欺、サプライチェーン攻撃、ゼロデイ脆弱性など、手法の多様化はとどまるところを知りません。

出典元:法務省「令和6年版 犯罪白書 第4編/第5章/第1節」
サイバー犯罪の総検挙件数は、平成16年から令和5年にかけて一貫して増加傾向にあり、大企業がランサムウェア被害に遭う事例も多発しています。
2025年10月には、LOHACOを運営するアスクル株式会社やアサヒグループがサイバー攻撃を受け、通販の受注・出荷ができない障害が発生。サイバー攻撃の手口が高度化・巧妙化している現状で、主要製品の受注・生産・出荷が停止する事態につながっています。
また、中小企業の被害も深刻です。ランサムウェアの平均被害額は数百万円から1,000万円規模に上ることもあり、情報漏えいや顧客情報流出は企業の信用低下や取引停止リスクにも直結します。
これまでの防御策は、ウイルス対策ソフトやファイアウォールなど基本的なセキュリティ対策で十分とされてきました。
しかし、昨今のサイバー攻撃は高度で巧妙なため、従来型の対策だけでは防ぎきれないケースが増えています。そのため、被害を未然に防ぐための高度なセキュリティ監視体制と即応体制の確立が求められるようになっています。
1-2. 日本国内では情報セキュリティ人材が大幅に不足
出典元:経済産業省「第10回産業サイバーセキュリティ研究会(令和6年3月)」
経済産業省が令和6年にまとめたデータによると、日本の中小企業における約9割が「セキュリティ人材の不足を感じている」と回答。国内の情報セキュリティ人材は慢性的に不足しており、調査では約19万人不足していると推計されています。
特に中小企業では、専任の部署や担当者が置かれるケースは少なく、多くは兼務で数名が運用しているなど、専門性の高いセキュリティ対応は難しいのが実態です。
さらに、人材の採用・教育にも多くの時間・コストが掛かってしまいます。高度なセキュリティ脅威に対して、求められるセキュリティレベルを達成するまでの間に、さまざまなリスクに晒されてしまうのは否定できません。
こうした背景から、情シスにおけるセキュリティ対策の人材不足は「外部へのアウトソーシング&業務委託」で解決する需要が高まっています。
外部の専門家に第二の情シス担当者としてセキュリティをアウトソーシングすれば、自社のリソースが不足していても、監視体制や脅威対応が可能です。IT人材の人手不足が進む日本社会では、情シスのセキュリティ対策を専門家にアウトソーシングする必要性が高まっていると言えるでしょう。
2.情シスのセキュリティ対策をアウトソーシングするメリット・デメリット

自社の情シスだけでセキュリティ対策の確保が難しいケースでは、「アウトソーシング(外部委託)」を選択するケースが多くなっています。セキュリティ対策のアウトソーシングは、自社に専門知識を持つ人材がいなくても、高度な脅威への対応・監視体制を確保できる方法です。
具体的には、アウトソーシングによって以下のようなメリット・デメリットを得られます。
- ・メリット1:専門性の確保
- ・メリット2:コア業務への集中
- ・メリット3:属人化の防止と体制の安定化
- ・メリット4:採用・教育コストの削減による費用対効果
- ・デメリット:コストと依存のリスク
メリット1:専門性の確保
セキュリティ対策をアウトソーシングする最大のメリットは、専門性の確保です。自社の情シスに専門人材がいなくても、外部ベンダーに任せることで「高度な技術」と「豊富な経験」を活用でき、常に最新の攻撃手法や脅威に対応できる体制を確保できます。
たとえば、ランサムウェアの侵入経路を特定して感染拡大を防ぐ高度な分析や、クラウドサービスの脆弱性診断など、専門知識が必要な業務も「迅速」に適用可能です。
メリット2:コア業務への集中
自社の情シス担当者に掛かる負担を軽減して、コア業務へ集中しやすくなるのもアウトソーシングのメリットです。日々の監視、アップデート、インシデント対応といったセキュリティ運用は、多くの工数を要する「ノンコア業務」です。
情報システム担当者が日々の監視業務やトラブル対応に追われると、本来注力すべき業務改善やDX推進が後回しになってしまいます。各セキュリティ対策をアウトソーシングすれば、情報システム部門などの貴重な社内リソースを重要な業務にフォーカスしやすいのが魅力です。
担当者は「ICTシステムの最適化」や「新規プロジェクトの推進」など、企業の競争力を高める「コア業務」に集中できます。また、定型業務を委託することで担当者は戦略的な業務に集中でき、結果として企業全体の生産性向上につながります。
メリット3:属人化の防止と体制の安定化
情シスのセキュリティ対策をアウトソーシングすれば、「一人情シス」などで起こりがちな属人化を防ぎ、対応力を安定化させられるのもメリットです。セキュリティ対策を社内の特定担当者のみで行うと「属人化」(その人しか分からない状態)のリスクが発生します。
属人化してしまうと、担当者の退職や異動により、業務が停滞するリスクやノウハウが失われる危険性があるのも事実です。一方で、アウトソーシングすれば標準化されたプロセスで運用されるため、特定担当者に依存せず安定した体制を維持できます。
加えて、定期的に情報共有を行うことで、複数企業での運用経験を持つベンダーによるノウハウを取り入れられるのもメリットです。セキュリティ対策を含む、情シス全般の運用の質を継続的に向上させられます。
メリット4:採用・教育コストの削減による費用対効果
情シスのセキュリティ対策をアウトソーシングすれば、コスト面でもメリットを受けられます。アウトソーシングは月々換算の外注費用こそ発生してしまうものの、専任人材の採用・教育に比べて、安価なケースが一般的です。
また、専門家のベンダーがクラウド型監視や自動化ツールの活用を推し進めてくれるため、コストパフォーマンスの高い体制を構築できます。日常の監視やインシデント発生時の即応体制を確保することで、被害を最小限に抑えられる点も大きな魅力です。
デメリット:コストと依存のリスク
情シスのセキュリティ対策をアウトソーシングすると、月々の運用コストやベンダーに依存してしまうリスクがデメリットです。
専門的な監視・運用サービスを利用するため、初期費用や月額の運用コストが発生します。インシデント発生時に契約範囲外の特別な対応を依頼すると、追加費用がかかるケースもあります。
そのため、「自社で高度な人材を雇用・維持するコスト」や「万が一セキュリティインシデントが発生した際の甚大な被害額」と比較し、費用対効果を踏まえたうえでメリットが大きい場合に導入するのがベストです。
また、セキュリティ業務を全面的に外部委託することで、社内にノウハウが蓄積されにくくなる「ベンダー依存」の状態に陥る可能性があります。特定のベンダーに依存しすぎると、将来的に契約内容を見直したり、内製化(自社運用)に戻したりする際のハードルが上がるリスクも。
ただ丸投げするのではなく、定期的な報告会などを通じて情報共有を密に行い、自社でも状況やノウハウを把握できる体制を維持することが重要です。
3. セキュリティ対策のアウトソーシング会社を選ぶコツ

セキュリティ対策のアウトソーシングは、情シスのリソースや人材不足を感じている企業にとって非常に有効な解決策です。しかし、すべてのアウトソーシング会社が自社のケースに適している、とは限りません。
アウトソーシング会社を選定する際には、次のポイントをチェックしましょう。
- ・信頼できるセキュリティ体制か
- ・サポートの内容・時間の要件とマッチするか
- ・情シス業務を幅広くカバーしているか
- ・戦略的な視点を持つか
- ・ノウハウとなる実績や事例が豊富か
3-1.信頼できるセキュリティ体制か
アウトソーシング先は、自社の重要な情報資産を預け、管理を委ねるビジネスパートナーです。そのため、信頼性とセキュリティ対策の堅牢さに対する確認が求められます。
認証・認定の有無では、「ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)」認証や、国際的なセキュリティ統制の保証基準である「SOC 2」などの認証を取得していれば、適切な取り組みを行っていると判断可能できます。
あわせて「定期的なセキュリティ監査」の実施状況や、「アクセス制御」「データの暗号化」といった具体的な防御策の内容も確認しましょう。
3-2.サポートの内容・時間の要件とマッチするか
自社の要件(何を、どこまで、いつ)と、委託先のサービス内容が合致しているかは、アウトソーシングにおいて非常に重要です。アカウント管理、クラウド運用、バックアップ管理など、社内負荷を軽減できる幅広い業務、依頼したい業務に対応できるベンダー選びが欠かせません。
- ・ソフトウェア導入のみで運用監視は対象外
- ・IT資産管理は対応が不可
- ・夜間や休日のトラブル対応はオプション費用が掛かる
このようなミスマッチを避けるため、契約前に具体的な支援内容、対応可能な時間帯を詳細に確認し、より自社に合っている情シスのアウトソーシング先を選定しましょう。
3-3.情シス業務を幅広くカバーしているか
セキュリティ対策の効果を最大化するには、対応範囲の広さも選定基準となります。セキュリティ以外の情シス業務(ネットワーク構築、キッティング、ヘルプデスク等)も一括で依頼できると、より複合的・効果的な対策が実現可能です。
セキュリティ対策以外にも、幅広い情シス業務を統括的に任せられるアウトソーシング先なら、以下のようなメリットを得られます。
- 基盤強化:ネットワーク構築とセキュリティ対策を一体化し、設計段階から安全性の高い基盤を構築できる
- エンドポイント管理:キッティング(PC初期設定)と同時に、自社のセキュリティポリシーに準拠した設定を組み込める
- 効率化:複数のベンダーとの調整・連携の手間が削減でき、情シスの窓口が一本化される
業務環境全体を最適化し、包括的なサービス(ワンストップ)で効果的な対策実現が可能な企業を選択すれば、より強力なセキュリティ体制を構築できます。
3-4.戦略的な視点を持つか
単なるセキュリティ対策の運用代行だけではなく、上位の戦略立案を支援するコンサルティング機能、戦略的な視点を持っているかもアウトソーシング先における選定基準のひとつです。
コンサルティングを提供しているベンダーなら、現状評価、課題抽出、目標設定、対策立案など、より戦略的な視点でのセキュリティ対策を実施できます。
「自社のセキュリティ体制に漠然とした不安がある」「ゼロベースで全面的に見直したい」といった場合には特に有効な選択肢です。戦略的な視点を持つパートナーは、「情シスのアウトソーシング」以上の価値を提供してくれます。
3-5.ノウハウとなる実績や事例が豊富か
情シスのセキュリティ対策をアウトソーシングする場合は、「豊富な実績」もノウハウの蓄積を意味する重要な判断基準です。これまでの導入実績(件数、取引先企業)を確認し、信頼性と安定性を確認しましょう。
特に注目すべきは「自社と近い業種」や「同程度企業規模」での支援事例の有無です。類似事例が多ければ、より自社特有の課題を理解したスムーズな対応が期待できます。
4.セキュリティ対策をアウトソーシングするまでの導入ステップ

アウトソーシングの導入は、企業のセキュリティ体制を大きく左右する重要なプロジェクトです。だからこそ段階的に、かつ慎重に計画を進めることが求められます。
ここでは、セキュリティ対策のアウトソーシングを導入するまでの流れを解説します。
Step1.現状把握と要件定義
自社の情報資産の棚卸を行い、「何を」「どこまで」委託したいのかを具体的に定義します。守りたいのか、何を委託したいのか(監視だけか、緊急対応も委託するか)を明確にしたうえで、要件定義と現状のリスク評価を行います。
また、委託する情シス業務でも「優先度」「必要時間」「重要業務」をより具体的に定義しておくことで、後のベンダー選定がスムーズになります。
Step2.委託先の選定と見積もり
複数のベンダーにRFP(提案依頼書)を提示し、提案内容と見積もりを比較、検討して、自社にもっとも合致する最適なパートナーを選定します。
- 1. RFP(提案依頼書)の提示:Step 1で定めた詳細な要件を基にRFPを作成し、複数のベンダーに提案を依頼
- 2. 提案内容と見積もりの比較検討:単なる価格だけでなく、技術的な適合性、実績、提案されたサービスレベル(SLA)を総合的に評価
- 3. サービスレベルの明確化:「緊急対応の可否(対応時間と報告ルート)」「定期的な報告体制(頻度と内容)」「具体的なサービス範囲」などを明確化
期待するサービス品質(SLA)を明確にしたうえで、各種事業者の対応力を比較検討することが重要です。
Step3.契約とサービス内容の確認
契約を締結する前に、実務レベルでの運用方法や連携ルールを細部まで確認し、認識の齟齬がない状態にします。サービス範囲、対応時間、報告頻度、障害対応時のプロセスなど、契約書に記載された内容を再確認しましょう。
また、現在のネットワーク構成の共有や設定変更、セキュリティツールやアカウント情報などに伴う社内ルールの共有など、実際に対応してもらう内容を想定し対応方法のすり合わせを行うのも大切です。
社内申請・承認ルールなど、両者が守るべき具体的な運用ルールを明確にすり合わせます。
Step4.セキュリティ対策の導入・運用テスト
セキュリティ対策のアウトソーシング先が決まったら、実際に運用テストを行います。監視ツールの導入やネットワーク設定の変更、緊急連絡体制の構築など、Step3で定めた業務手順を元にテスト運用を行い問題が無いか確認します。
インシデントが発生したと仮定して、緊急連絡の体制や障害対応手順をもとに、一連の流れに問題がないかチェックしましょう。連絡の遅延や対応漏れなどの問題がないかを確認したうえで、スムーズに本運用へ移行できる状態を確立します。
Step5.運用開始と継続的な改善
本格的な運用開始後は、定期的な報告やミーティングを行い、対策の見直しや改善をもとに体制強化を図ります。最終的にセキュリティのアウトソーシング先として、信頼できる関係を構築できるか確認してセキュリティ体制を整えることが大切です。
報告内容や最新のセキュリティトレンドに基づき、対策の有効性を評価して見直しや改善を継続的に行っていけば、リスクを最小限に抑えつつ、安定したセキュリティ対策の環境を手に入れられます。
5.まとめ:自社に最適なアウトソーシングで強固なセキュリティ体制を
増加し続けているサイバー攻撃のリスクと人材不足により、セキュリティ対策のアウトソーシングは有効な経営判断です。専門性の高い人材を確保できたり、自社リソースをコア業務に集中できたり、属人化の防止などさまざまなメリットを得られます。
一方で、コスト面による費用対効果の検証や、定期的な情報共有を怠るとベンダーに依存してしまうといったデメリットも否定できません。
「自社が何をどこまで守りたいのか」を明確にし、委託先企業の選定を行いましょう。アウトソーシング先の企業が自社と合っているのか、サービスは適切かを慎重に見極めていくことで、情シス業務のアウトソーシング・セキュリティ体制の強化は成功へ繋がります。
- 「情シスの人手が足りない」
- 「セキュリティ対策がきちんとできているのか分からない」
- 「もしかしたらセキュリティホールを見逃しているかも」
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