現代の企業において、情報システム部門(情シス)は企業のIT戦略を支える中核的な存在です。その役割は年々重要性を増しているものの、適切な評価軸や目標設定を建てられておらず、「どのように評価すればよいか分からない」と頭を悩ませる方もいます。
正しい目標設定がされないと、成果の評価が難しくなるだけでなく、「従業員のモチベーション低下」「業務の優先順位が不明確になる」「コストパフォーマンスの悪化」など、さまざまな問題に直面するのも事実です。
そのため、情シスでは「成長するための目標設定」が求められています。
本記事では、情シスの目標設定の方法やその重要性について詳しく解説します。
目次
1.情シスの目標設定は何が難しいのか?
情シスは企業にとって欠かせない存在ですが、数値としては図りきれない定性的な役割を担います。何よりも問題なのは、情シスの仕事は企業の根幹を支えているものの、売上に直結するわけではない点です。
適切な評価や目標設定は「企業の成長」に繋がりますが、細かい裏方業務が多く、見えやすい形で成果が出なかったり、公平な評価がしづらかったりする課題があります。
ここでは、情シスの目標設定は何が難しいのか、それぞれの要素を掘り下げて解説します。
1-1.情シスの仕事は企業の根幹を支えること
情シスの仕事は、企業のITインフラを支え、セキュリティを確保し、業務効率化を推進するなど、多岐にわたる重要な役割を担っています。企業全体のパフォーマンス向上に貢献し、持続的な成長を支える基盤を提供しているのが情シスの仕事です。
だからこそ、情シスの存在は「事業活動の根幹を支えること」が前提にあります。そして、既存環境の整備だけでなく、常に変化するIT技術の導入で企業競争力を高める取り組みも求められます。
しかし、常に新しい技術を習得し、システムを更新するのは多大な労力です。さらに、新しい技術の導入にはコストがかかるだけでなく、リスクも伴います。技術の変化にどのように対応していくかを目標に含めることも重要ですが、その目標設定は容易ではありません。
1-2.情シスの仕事は売上に直結するわけではない
情シスは企業運営に不可欠な存在ですが、その役割は理解されにくく、正当に評価されないことも少なくありません。多くの人は情シスを、収益を生み出さずコストだけが集計される「コストセンター」と見なしますが、実際はどうでしょうか?
基幹システムがトラブルを起こせば、受注処理や在庫確認に支障が生じ、手作業での対応を余儀なくされます。これは大幅な時間と労力のロスにつながり、売上にも悪影響を及ぼします。障害発生時の対応や、事前点検による障害予防も情シスの重要な役割です。
情シスは直接的な売上には貢献しませんが、企業の円滑な運営を陰ながら支えており、企業全体のパフォーマンス最適化に貢献しています。しかし、具体的な数値が見づらいため、情シスの目標設定に定量的な評価対象を持ち込みにくい点が課題です。
1-3. 業務範囲が広く、かつ専門知識がないと公平な評価がしづらい
情シスの業務範囲は多岐にわたるため、それぞれの領域に対する知識がないと公平な評価判断がしづらいのも目標設定を難しくしている要因のひとつです。情シスは「ネットワーク構築」「サーバー運用」「セキュリティ対策」「ヘルプデスク」「ソフトウェア開発」など、多岐にわたる業務を抱えています。
これらの業務はそれぞれ専門性が高く、担当者のスキルや経験によって成果も大きく左右されます。そのため、業務内容を理解し、適切な評価指標を設定することが重要です。
例えば、システム開発では開発期間や品質、コストなどの評価指標を目標設定にできます。また、ヘルプデスクであれば、対応件数や顧客満足度などを評価指標とするのもポイントです。
しかし、情シスの業務にはいずれも高度な専門知識が求められ、評価を下す担当者にも一定のIT知識が求められます。企業内で専門知識を持つ評価者が限られていると、全体の公平な評価が難しくなり、目標設定の管理まで難しくなってしまうのが課題です。
1-4. 細かい裏方業務が多く、見えやすい形で成果が出ない
情シスのセキュリティ対応やITシステムの保守は、インシデント発生時に初めて社内的にスポットライトを浴びます。逆に言うと普段は何をしているのか見えにくく、それゆえに「コストセンターではないか」という視線も浴びやすい状況があります。
しかし、これらの裏方業務は、企業にとって非常に重要な役割を果たしているのも事実です。セキュリティ対策は情報漏洩リスクを軽減し、企業の信頼性を守ります。また、システム保守は、ITシステムの安定稼働を支え、業務効率を向上させています。
上記の業務を可視化して、定量的な評価指標を設ければ、情シスの貢献を社内にアピールすることが可能です。例えば、セキュリティ対策であれば、脆弱性対応件数。システム保守であれば、システム稼働率や障害対応時間などを評価指標にできます。
とはいえ、そのすべてを定量的に評価できるわけではありません。細かい裏方業務が多いからこそ、見えやすい形で成果が出にくく、適切な評価・目標設定を行いにくいのが情シスの課題です。
2. 情シスの目標設定を行う際のポイント
情報システム部門(情シス)の目標設定は、企業のIT戦略を具現化し、事業成長に貢献するための重要なプロセスです。しかし、情シスの目標設定は、その特性上いくつかの課題を抱えています。
ここでは、情シスの目標設定を成功させるために欠かせない5つのポイントを紹介します。
- 目的と目標について共通認識を作る
- 情シスの専門知識のある人が目標設定を行う
- 目標設定のフレームワークを活用する
- 定点目標だけでなく、プロセスも指定する
- 個々人の性格特性を意識した目標にする
2-1. 目的と目標について共通認識を作る
目標設定を行う前に、まず目的と目標について共通認識を持つことが重要です。「目的」とは、企業が達成したい長期的な目標やビジョンです。一方で、「目標」とは、その目的を達成するための具体的な行動指針を指します。
目的:組織や個人が達成したい最終的な状態(ゴール)
目標:目的を達成するための手段や指標
例えば、「自社のDX化を実現する」といった目的を達成するために、「1年目にITツールを導入する」「2~3年でクラウド環境の実現&現場に定着させる」「AIやRPAなどのツール導入で業務効率化を推進する」といった細かい目標を実現していくイメージです。
実際には、さらにそれぞれ細かいステップで「目的」と「目標」が発生します。「目的と目標」について経営層や各部門と共通認識を持てば、情シス向けの効果的な目標設定を行いやすくなります。
2-2. 情シスの専門知識のある人が目標設定を行う
情シスの目標設定は、ITに関する専門知識を持つ人が行う必要があります。IT技術は常に進化しており、最新の技術動向や業界のトレンドを把握していなければなりません。IT技術の知見がなければ、具体的にどのような目標設定を行うべきか、自社の環境に即した条件を設定するのは難しくなっています。
実現不可能だったり、曖昧な認識で目標設定を行ってしまったりすると、「目標を達成しよう」という意欲が削がれて無意味な目標設定になってしまうケースも珍しくありません。
そのような状況を回避するためにも、企業のIT環境や課題を的確に分析し、実現可能な目標を設定できる有識者の協力が重要です。可能であれば、経営層を含めた理解のある担当者が求められます。
2-3. 目標設定のフレームワークを活用する
情シスの目標設定では、特定のフレームワークを活用することで、目標の具体性や達成可能性を高められます。
ここでは、代表的なフレームワークとして、「SMARTの法則」「FASTの法則」「OKR」を紹介します。
2-3-1. SMARTの法則
SMARTとは、以下の5つの要素の頭文字を表します。
- ・Specific(具体性):目標を明確かつ具体的にする
- ・Measurable(計量性):目標達成度を測定できるようにする
- ・Achievable(達成可能性):現実的で達成可能な目標を設定する
- ・Relevant(関連性):役割や組織の目標に関連した目標にする
- ・Time-bound(明確な期限):明確な期限を設定する
FASTの法則とは、目標を明確化して、達成度合い・実現可能性を計測しやすくなるフレームワークです。
例:キャリア開発
目標:新しいスキルを習得する
- ・Specific(具体的):プログラミング言語Pythonを習得するために、毎日1時間のオンラインコースを受講する
- ・Measurable(測定可能):6ヶ月以内にPythonの基礎を習得し、簡単なプログラムを作成できるようになる
- ・Achievable(達成可能):現在のスケジュールを考慮して、毎日1時間の学習時間を確保することは可能である
- ・Relevant(関連性のある):キャリアアップのために必要なスキルであり、将来的な仕事の機会を広げるために重要である
- ・Time-bound(期限が明確):6ヶ月以内にPythonの基礎を習得する
2-3-2. FASTの法則
FASTとは、以下の4つの要素の頭文字を表します。
- ・Frequent(頻繁):定期的に見直し、進捗状況を議論する
- ・Ambitious(野心的):挑戦的で努力が必要な目標にする
- ・Specific(具体性):具体的な指標やマイルストーンを設定する
- ・Transparent(透明性):組織全体で共有し、進捗状況を確認できるようにする
FASTの法則は、目標設定をより動的で挑戦的なものにし、組織全体の協力を促進するフレームワークです。
例:社内研修プログラム
目標:社員の技術スキルを1年で30%向上させる
- ・Frequent(頻繁に議論する):毎月の研修進捗会議を開催し、参加者のフィードバックを収集
- ・Ambitious(野心的である):1年で技術スキルを30%向上させるという高い目標を設定
- ・Specific(具体的である):具体的な研修内容(プログラミング言語の習得、新しいツールの使用方法など)を設定し、それぞれの研修の終了期限を明確
- ・Transparent(透明性がある):研修の進捗状況や成果を社内ポータルで共有し、全員が確認できるように
2-3-3. OKR
OKRとは、「目標と主要な成果」を意味する目標管理フレームワークです。企業全体の目標から個々の目標まで細分化して設定することで、全従業員が共通認識を持ち、同じ方向を目指して活動できます。
Objective(目標):達成したい大きな目標
Key Results(主要な結果):目標達成に必要な具体的な成果指標(数値で示す)
OKRでは、達成率60~70%となる野心的な目標設定が推奨されています。FASTの法則と同様に、高い目標を設定して実現を目指していくと、従業員のモチベーション向上や組織全体のスキルアップをもたらすと考えられるためです。
そのため、OKRでは設定する目標は野心的なものや、ワクワクできるような目標設定が大切です。
Googleやメルカリ、freee、Sansanなど皆様が一度は聞いたことあるような企業も「OKR」を導入しており、同社の大躍進に一役買った手法として注目を集めています。
はじめに「企業全体での目標」と「目標達成に必要な成果指標」を複数決めて、次に「企業の目標を叶えるための部門の目標と成果指標」、さらに「部門の目標を叶えるための目標と成果指標」といった形で、従業員一人ひとりの目標にいたるまで細分化して設定するのがOKRのフレームワークです。
例: 営業チームの売上目標
- 目標(Objective):四半期売上を増加させる
- 主要な結果(Key Result 1):新規契約数を20件獲得する
- 主要な結果(Key Result 2):既存顧客からの追加注文を15%増加させる
- 主要な結果(Key Result 3):平均契約額を10%増加させる
2-4. 定点目標だけでなく、プロセスも指定する
目標設定においては、最終的な成果を示す「定点目標(成果目標)」だけでなく、目標達成に必要な行動やステップを示す「プロセス目標」も重要です。プロセスを明確化すれば、目標達成に向けた具体的な行動計画を立てやすくなります。
- ・定点目標(成果目標):従業員の業務効率を20%向上させる など
- ・プロセス目標:「RPA/AIツールの導入と活用」「業務プロセスの見直しと改善」「クラウドサービスの導入」「従業員へのITスキル研修の実施」 など
定期的な進捗確認やフィードバックを通じて、両目標のバランスを取りながら、柔軟に対応していくことが重要です。また、定期的に目標の進捗を確認し、必要に応じてプロセス目標を調整します。これにより、定点目標に向けた取り組みが効果的に進行しているかを確認できます。
それに合わせてフィードバックを行えば、プロセス目標を改善することが可能です。
2-5. 個々人の性格特性を意識した目標にする
個々の性格特性を意識した目標をあわせ持つことは非常に効果的な取り組みです。
従業員にはそれぞれ「あるべき理想の目標からバックキャストして設定したほうが推進する人」「かなりストレッチした目標設定が効果的な人」もいれば、「現状から現実的な目標をフォーキャスティングで設定したほうがいい人」などさまざまです。
会社で一律の決め方にするのも公平性は保たれるものの、個々の性格特性を加味して上司の判断で柔軟に設定する方が、多様な人材をカバーすできます。
性格特性といっても、上長が各メンバーをすべて把握するのは難しいのも事実です。自己理解を深めるために、性格診断やフィードバックセッションを活用するのも選択肢のひとつと言えます。
- 性格診断テスト:MBTI(Myers-Briggs Type Indicator)やビッグファイブ性格特性などのテストを利用して、各メンバーの性格特性を明確にする
- フィードバックセッション:定期的なフィードバックセッションを通じて、自己理解を深める機会を提供する
個々の性格特性に合わせた情シス向け目標設定の例を上げれば、以下のような分類分けが可能です。
- 内向的なメンバー:個別の技術研究、データ分析、プログラミングタスク など
- 外向的なメンバー:チームリーダーシップ、プロジェクトマネジメント、クライアントとのコミュニケーション など
個々人の性格特性を意識した目標設定は、メンバーのパフォーマンスを最大化し、チーム全体の成果を向上させるための有効な手段です。自己理解を深め、具体的な目標を設定し、柔軟に対応すれば、より効果的な目標達成が可能と言えるでしょう。
3. 情シスの目標設定の指標例
情シスの活動は多岐にわたるため、さまざまな指標を活用し、定量的に目標を設定する必要があります。続いては、情シスの目標設定になる指標を8つに分けてご紹介します
3-1. セキュリティインシデント数、削減
セキュリティインシデントとは、情報システムやデータの機密性、完全性、可用性が脅かされる事象を指します。具体的には、データ漏洩、マルウェア感染、不正アクセスなどが含まれます。
これらのインシデントは、企業の業務に重大な影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
情シスにおけるセキュリティインシデントの発生を抑える取り組みは、企業の信頼性と業務の継続性を確保するために欠かせません。
セキュリティインシデント数の削減は、情シスにおいて以下の3つの理由から非常に重要な事項と言えるでしょう。
- 業務の継続性の確保:セキュリティインシデントが発生すると、システムのダウンタイムやデータの損失が発生し、業務の継続性が損なわれる
- 企業の信頼性の向上:セキュリティインシデントが少ない企業は、顧客や取引先からの信頼を得やすくなる
- 法的リスクの軽減:データ保護法やプライバシー規制に違反すると、法的な罰則や罰金が科される可能性がある
そのため、目標設定の指標例では以下のようなポイントを取り入れます。
- インシデント数:発生したセキュリティインシデントの件数
- 削減率:前年比、または目標値に対するインシデント削減率
- インシデント内容:マルウェア感染、不正アクセス、情報漏洩などの内訳
3-2. システムの障害対応数、発生率
情シスが適切な運用を行えているかを判断するうえで、インシデントの発生状況は重要な判断材料です。インシデントとは、システム障害などの事象が発生し、業務への影響が想定される事態を指します。
発生したインシデント件数が多ければ、システムの安定性や情シスの対応能力に課題があると見なされます。例えば、サイバー攻撃を受けて顧客情報が流出するような、クリティカルなインシデントが発生していれば、セキュリティ対策の不備が指摘されることでしょう。
このようにインシデント発生状況は、システムの品質や情シスの運用力を表す重要な指標です。発生件数をできる限り抑えることはもちろん、インシデントの内容や影響度・原因なども分析し、適切な対策を講じることがポイントとなります。
- 障害対応数:システム障害発生時の対応件数
- 発生率:システム全体の稼働時間に対する障害発生時間の割合
- 対応時間:障害発生から復旧までの平均時間
3-3. ネットワークの平均速度、遅延時間
情シスにおけるネットワークの平均速度と遅延時間の指標は、業務の効率性や生産性とユーザー満足度を向上させるために不可欠です。
会社内で働いている人間同士でのみ使われる「社内ネットワーク」は、社内という閉じた環境内のみでの通信が行われるため、公共のインターネット回線のように回線が混雑してしまう・通信速度が遅くなってしまうというトラブルは少なくなっています。
しかし、それでも、まれに社内ネットワークの速度が非常に遅くなってしまう事例があるのも事実です。社内ネットワークの速度低下はさまざまな原因があるため、具体的な断言はできないものの、定期的な点検・対策を講じて問題の特定・トラブル発生率の低下に取り組まなければなりません。
- 平均速度:ネットワーク回線の平均通信速度
- 遅延時間:データ送受信における遅延時間
- パケットロス率:データパケットの損失率
3-4. ITコスト削減額、削減率
ITコスト削減額と削減率は、企業の財務健全性と競争力を向上させるために重要な指標です。現状のコストを正確に把握し、効果的な削減施策を実施することで、持続可能なコスト削減が可能となります。
具体的な削減施策としては、以下のようなものがあります
- クラウドサービスの活用:オンプレミスのサーバーをクラウドに移行すれば、ハードウェアの維持費や電力コストを削減可能
- ソフトウェアライセンスの最適化:使用していないソフトウェアライセンスを見直し、不要なライセンスを解約することでコストを削減
- ネットワークの統合:複数のネットワークを統合し運用コストを削減
- アウトソーシング:自社のITリソースが不足している場合は、維持や管理等の業務を外注することでコストを削減できる可能性がある
たとえば、クラウド化を通じて保守に伴う人件費を削減するなど、自社のみで運用を完結できないものは外部に任せた方が効率的でしょう。
アウトソーシングであれば当コラムにても詳しく書いておりますので一読していただければと思います。
3-5. 業務プロセスの自動化率
業務プロセスの自動化とは、手動で行っていた業務をソフトウェアやツールを使って自動化することを指します。自動化率を高めるためには、ただツールを導入するだけでなく、「マニュアル」等の整備によって現場定着・自己解決を促す取り組みが大切です。
例えば社内マニュアルで、新入社員の入社時に「各種デバイスや社内システムの基本的な取り扱い方法を記載した入社マニュアル」「デバイスのトラブルの対処法を示した運用マニュアル」「社内の機密情報や個人情報の安全な取り扱いを実現するためのセキュリティーマニュアル」などが例として挙げられます。
FAQでは、「急にパソコンの電源がつかなくなってしまった」「社内システムにログインできない」など、従業員からの問い合わせが特に多い内容を上記のマニュアルからピックアップし、質問・回答形式でまとめることで、わかりやすく問題解決へ導けます。
- 自動化率:自動化された業務プロセスの割合
- 自動化による導入効果測定:業務時間短縮、人件費削減などの効果
3-6. プロジェクトの完了率、品質スコア
ITプロジェクトの成功は、企業の事業目標達成に貢献します。プロジェクトの遅延や品質問題は、企業の機会損失やコスト増大につながる可能性があります。プロジェクトの完了率と品質スコアは、プロジェクト管理の成功を測る重要な指標です。
プロジェクトの完了率とは、計画されたプロジェクトがどの程度完遂されたかを示す割合です。例えば、10のプロジェクトが計画され、そのうち8つが完了した場合、完了率は80%となります。
完了率の向上策として挙げられるのは主に3つです。
- ①明確な目標設定:プロジェクトの目標を明確にし、達成基準を設定します。
- ②進捗管理:定期的な進捗確認とフィードバックを行い、問題を早期に発見・解決します。
- ③リソース管理:必要なリソースを適切に配分し、プロジェクトの遅延を防ぎます。
品質スコアは、プロジェクトの成果物がどれだけ高品質であるかを評価する指標です。顧客満足度やバグ発生率などをもとに目標設定を行います。社内向けシステムとして開発したにもかかわらず、従業員満足度が低ければ導入効果は薄くなってしまいます。
- 完了率:完了したプロジェクトの割合
- 品質スコア:プロジェクトの品質を評価する指標(顧客満足度、バグ発生率など)
- 納期遵守率:プロジェクトの納期遵守率
3-7. ユーザー満足度、社内満足度
ユーザー満足度と社内満足度は、情シスのパフォーマンスを評価する重要な指標です。これらの指標を適切に管理し、改善策を講じることで、情シスの信頼性と従業員のモチベーションを向上させることができます。
ユーザー満足度は、情シスが提供するサービスやサポートに対する社内ユーザーの満足度を測る指標です。高いユーザー満足度は、情シスの信頼性とサービス品質の高さを示します。
社内満足度は、情シスのメンバーが職場環境や業務内容にどれだけ満足しているかを測る指標です。高い社内満足度は、従業員のモチベーションと生産性の向上に寄与します。
社内満足度を上げると顧客満足度を上げると、優秀な人材の流出を防げます。特に優秀なIT人材が会社を辞めてしまうと、会社にとって大ダメージです。顧客に対しても「担当がコロコロ変わる」「知識が浅いスタッフばかり」などの悪印象を与えてしまうため、顧客満足度も下がり、業績も下がる原因となります。
一方で従業員満足度が高い会社は従業員の定着率も高いため、採用活動に時間やコストを取られることもなく、本来の業務に集中できます。高いモチベーションを持った社員は顧客に良いサービスを提供し、業績の向上につな繋がるのです。
一例ではございますがユーザー満足度、社内満足度を施策として同時に高めている会社があります。
ザ・リッツ・カールトン・ホテル
リッツ・カールトンは、従業員も顧客と同じように「紳士淑女」として大切に扱っています。従業員第一主義を貫くことで、従業員は顧客を喜ばせることに最善を尽くし、顧客を感動させるサービスを生み出しています。
また、従業員には2,000ドル(日本円にて約30万円)の決裁権が与えられており、従業員はスピード感を持って目の前の顧客を感動させるサービスを提供することができます。
GMOインターネット株式会社
GMOインターネット株式会社は、「世界一のサービスを提供するためには、世界一の人財が不可欠」という言葉を掲げ、人財(=人材)を何よりも大切にしています。
従業員満足度やエンゲージメントを上げるために、さまざまな施策を行っています。
- ・食事やドリンクが全て無料の食堂を、24時間365日オープン
- ・金曜の夜は食堂でバーをオープンし、従業員同士の交流が図れる
- ・パパやママが安心して働けるように、生後57日から預けられる社内託児所を設置
- ・従業員用のマッサージスペースと仮眠スペースを完備
- ・お昼寝を推奨し、生産性をアップ
- ・従業員が業務に集中できるよう、社内コンシェルジュを配備
従業員満足度を上げるには、正直コストも時間もかかります。しかし従業員のモチベーションを上げ、社内を活性化させることが、企業の業績を上げるためにとても重要なことなのです。
3-8. 新規技術導入数
情報システム部門(情シス)において、新規技術の導入は業務効率化や競争力向上に直結します。新規技術導入数とは、情シスがどれだけ積極的に新しい技術を取り入れているかを示す重要な指標です。
積極的に新しい技術を導入し、その効果を評価することで、企業全体の生産性と競争力を向上させられます。
策定したビジョン・戦略・計画に基づき、実際に業務効率化に向けたデジタル化を推進していきましょう。
ここで、いきなり全社単位や部門横断の大規模なDXに着手してしまうと、デジタル化の難易度が高く、成果が出るまで長期間を要してコストも膨大になってしまいます。
そこで、ツールなどを利用して「着実に成果を上げやすい環境」を特定の事業部・部門単位から取り組むのがおすすめです。
クラウド導入について当コラムにても詳しく記載しておりますので一度お読みいただければと思います。
4. 情シスの目標管理のおすすめツール
情シスの目標を適切に評価し、効果的に運用するためには、「明確な目標設定」「定量的な指標の活用」「定期的な進捗確認」をはじめとして、さまざまな達成過程等をチェックしなければなりません。
多くの情報を管理する必要がある情シスの目標管理では、適切なツールの活用が重要です。ここでは、情シスの目標管理におすすめのツールをご紹介します。
4-1. Trello
Trelloは、2011年に開発され、2017年1月からアトラシアンが運用しているプロジェクト管理ツールです。タスクをボードに貼り付けて完了したら次へ移動する「カンバン方式」に基づいたUIは非常に直感的で、タスクを容易に管理できます。
少人数でプロジェクト管理するのであれば、Trelloが情シスの目標管理ツールとしておすすめです。当社では社員ごとにカードを作り、そのカードに仕事の内容を記入していき、誰がどんな仕事をしているか把握しています。
そうすることで、適材適所でお互いの仕事をフォローできるように可視化できています。会社全体の仕事内容を把握し、共有することにより、業務を効率化・改善するツールです。
4-2. Asana
Asanaは、チームの目標を見据えてプロジェクトや日々のタスクを管理できる、ビジネスの成長を加速させるためのワークマネジメントプラットフォームです。検索機能も優秀で、多くの検索パラメーターが用意されています。
送信されたものが何だったか思い出せなくても、コラボレーターや作成日、関連するプロジェクトをもとに検索が可能であり、より高度な検索では覚えているパラメーターを使って検索結果の範囲を絞り込めるので、簡単に探し物を見つけ出せます。
Asanaのようなプロジェクト管理ツールは、他にも「Backlog」や「Notion」、「Redmine」など、数多く存在します。個人のタスク管理として有効で、
複数のプロジェクトを横断して各メンバーの業務を把握できたり、多くのクラウドサービスと連携できたり、予備知識を必要としないUIなど優位性が多くあります。
その代わり、そこまで高度な機能を要さない場合、高額なツールを導入する必要はありません。費用対効果をよく考えて導入を検討するべきでしょう。
4-3. HRBrain
HRBrainは、社員の満足度向上から人材管理まで、人事に関するあらゆる業務をまとめてサポートするクラウド型のシステムです。社員の評価データやスキル情報などを一元管理することで、人事の仕事を効率化し、データに基づいた分析や活用が可能です。
操作画面が見やすく、誰でも簡単に使えるのが特徴です。また、サポート体制も充実しており、導入から運用まで専任の担当者が丁寧にサポートします。
人材管理や人事評価制度の構築に関する課題もスムーズに解決できます。料金プランは企業の規模や状況に合わせて選択可能です。人材データの管理・活用を始めたい企業や、組織改革を進めたい企業におすすめです。
4-4. JIRA
Jiraは、アジャイルプロジェクト管理ツールとして広く利用されています。タスクの追跡、スプリントの計画、進捗の可視化が容易に行えます。特徴は、アジャイル開発に対応しており、短いサイクルでPDCAを繰り返して業務を行える点です。
また、作業の進捗状況を把握できる機能やチームの平均作業量を可視化できる機能など、扱える機能は多種多様です。そのほかにも、GitHubやSlackといった開発ツールやコミュニケーションツールとの連携も可能で、効率的なプロジェクト管理に貢献してくれます。
4-5. Monday.com
Monday.comは、クラウド型のプロジェクト管理ツールです。基本的なプロジェクトから複雑なプロジェクトまで幅広く対応可能。チームが1つのプラットフォームに集まりコミュニケーションを図ることで、業務効率化やプロジェクトの推進に役立ちます。
チームのタスク、プロジェクト、スケジュール、ガントチャート、ファイル、チャット、自動化機能搭載。加えてカスタマイズ性が高いのであらゆる業種に対応しています。今お使いのツールと連携すれば、さらなる作業効率UPを期待できるのも魅力です。
チームで進めている作業を一覧化できるうえに、誰が何をしているのかを感覚的に理解できるなど、トレーニング不要で誰でも簡単に使える操作性が特長です。
4-6. Smartssheet
Smartsheetは、組織の業績向上に役立つクラウド型のプロジェクト管理ツールです。リアルタイムでのデータ管理はもちろん、複数人での同時編集やレポート作成など共同作業にも対応しています。
大規模なプロジェクト・タスクの管理も対応しており、インターフェイスも使いやすさを追求しているため、直感的な操作が可能です。特徴は既存のスプレッドシートに慣れているユーザーにとって使いやすく、柔軟な管理が可能です。
5. 情シスの目標の評価と運用のポイント
情シスの目標を適切に評価し、効果的に運用するためには、いくつかの重要なポイントがあります。以下に、評価と運用の具体的な方法を紹介します。
5-1. 事実をベースに評価を行う
情シスの目標設定を評価する際は、常に事実をベースに評価する必要があります。具体的なデータや実績に基づいて評価を行えば、客観的で公平な評価が可能となります。
例えば、「プロジェクトの完了率」「システムの稼働率」「セキュリティインシデントの削減数」など、明確な数値データを用いて評価を行うことが大切です。これにより、評価の基準が明確になり、部下も自分のパフォーマンスを理解しやすくなります。
また、主観的な印象や個人的な好き嫌いは一切排除する必要があります。
評価においては、主観的な印象や個人的な好き嫌い、または「成果が出ているような雰囲気がする」といった曖昧な基準を排除することが重要です。
「彼はいつも頑張っているように見えるから高評価」といった評価は避けるべきです。代わりに、具体的な成果や行動に基づいて評価を行います。例えば、「彼は過去3ヶ月間で5つのプロジェクトを予定通りに完了させた」といった具体的な事実を基に評価を行います。
事実をベースに評価を行えば、部下目線での公平性が生まれます。公平な評価は、部下のモチベーションを高め、組織全体のパフォーマンス向上につながります。
全員に対して同じ評価基準を適用し、透明性を持って評価プロセスを進めれば、部下は自分が公平に評価されていると感じることができるのは大きなメリットです。これにより、部下の信頼を得られるため、チーム全体の士気も向上します。
5-2. 上司と部下が対話して最後は上司判断で評価する
目標の評価は、上司と部下が対話しながら行うことが望ましくなっています。部下は自身の目標達成状況や課題について上司に報告し、上司は、部下の自己評価や実績、能力などを総合的に判断して評価を行います。
最終的な評価は上司が行いますが、部下との対話を通じて、相互理解を深めることが重要です。
たとえ対話を通して評論の結果が同じだとしても、「対話があったのか」「ただ一方的に説明されたのか」では、部下の納得感が大きく異なります。
評価を下すことを目的にするのではなく、評価を受け入れてもらい、どのように課題を解決すべきか、未来に進んでもらうためのフォローアップが重要です。
5-3. 360度評価の取り扱いには注意が必要
360度評価は、多角的な視点から評価を行うことができる有効な手段です。360度評価とは、上司・部下・同僚など複数の視点から評価を行う手法で、公平性や客観性を高める効果があります。
しかし、360度評価を実施する前に、評価の目的を社内で共有することが重要です。「なぜ評価を実施するのか」「評価結果をどのように活用するのか」を事前に明確にし、従業員に丁寧に説明することで、評価への理解と協力を得やすくなります。目的が共有されていないと、的外れな評価コメントが集まる可能性があり、評価の信頼性を損なう恐れがあります。
次に、匿名性の確保が重要です。評価者が誰であるかが被評価者に伝わってしまうと、評価者が忖度したり、報復を恐れたりして正直な意見を言えなくなる可能性があります。匿名性を確保すれば、より率直な意見を集めることが可能です。
また、評価者だけでなく、評価内容が第三者に漏洩しないように、情報管理にも十分注意する必要があります。
さらに、評価結果の取り扱いにも注意が必要です。360度評価は、あくまで評価材料の一つであり、その結果だけですべてを判断するべきではありません。360度評価の結果を参考にしながら、部下の自己評価やほかの評価情報も総合的に判断する必要があります。
また、評価結果を本人に伝える際には、フィードバックの仕方にも配慮が必要です。頭ごなしに否定的な意見を伝えるのではなく、良い点を褒めたり、改善点を具体的に伝えたりするなど、相手の気持ちに寄り添った伝え方を心がけましょう。
360度評価は上司の視点からだけでは気づきにくい強み・弱みを客観的に把握できるものの、多用するのには注意が必要です。評価結果を鵜呑みにせず、ほかの評価情報と合わせて総合的に判断しなければなりません。
5-4. 結果だけでなく、取り組む姿勢にも目を向ける
情シスの目標設定・評価では、最終的な結果だけでなく、目標達成に向けたプロセスや姿勢も重視することが重要です。
成果を出し続ける優秀な人材には、共通の特徴、いわゆる「コンピテンシー」が見られます。これは、単に知識やスキルだけでなく、行動特性や思考様式なども含めた、持続的かつ汎用的に成果を出すための能力を指します。
例えば、目標達成意欲、問題解決能力、コミュニケーション能力などは、コンピテンシーの代表的な例です。現時点では定量的な結果が出ていなくても、正しい方向性で努力し、積極的に業務に取り組む姿勢があれば、将来的には必ず成果に繋がると考えられます。
結果だけに目を向け、プロセスや姿勢を評価しないでいると、従業員の自発的なモチベーションは徐々に失われていきます。
目標達成に向けた意欲や、業務に対する哲学・精神性などは、目に見えにくいものです。しかし、上記の能力は長期的な成長や成果に不可欠な要素であり、評価において適切に考慮する必要があります。
したがって、定量的な結果を評価すると同時に、目標達成に向けたプロセスや姿勢についてもフィードバックを行うことが重要です。
具体的には、以下のような点を話し合い、建設的なフィードバックを行う必要があります。
- ・目標達成のためにどのような工夫をしたのか
- ・どのような困難に直面し、どのように乗り越えたのか
- ・今回の経験を今後にどのように活かしていくのか
このような評価体制を構築することで、従業員のモチベーションを維持し、長期的な成長を支援できます。
5-5. 本人主体の丁寧な振り返りとPDCAサイクルを支援する
評価結果を伝えた後、一定期間を置いてから、本人に振り返りの機会を与えることも有効です。時間を置くことで、感情的な反応が落ち着き、より客観的に自己評価に向き合えるようになります。
振り返りを通して、良かった点・改善点・今後の目標などを本人に考えてもらうことで、主体的な成長を促せます。
評価の目的は、単に過去の成果を評価するだけでなく、未来の成長に繋げることにあります。そのため、評価結果を本人に深く理解させ、次のアクションに繋げる取り組みが重要です。
具体的には、以下のような取り組みが効果的です。
- ・評価結果に対する本人の所感をヒアリングする
- ・良かった点、改善点、今後の目標について、具体的な事例を交えながら話し合う
- ・目標達成に向けた具体的なアクションプランを、本人主体で策定する
上司は部下の振り返りを支援し、PDCAサイクルを回すためのサポートに徹しましょう。
具体的には、以下のようなPDCAを支援する取り組みが重要視されています。
- ・アクションプランの進捗状況を定期的に確認する
- ・課題や問題点があれば、一緒に解決策を検討する
- ・成功事例や教訓を共有し、組織全体の能力向上に繋げる
- ・上司と部下が定期的に振り返りミーティングを行い、自己評価の内容を共有
6. まとめ
現代において、情報システム部門は企業のIT戦略を支える中核的な存在です。情報システム部門の成功は、明確で実現可能な目標設定と、事実に基づいた公平な評価プロセスにかかっています。
情シスの目標設定が曖昧だと、ただでさえ人手不足が進む昨今において、貴重なIT人材のやる気を喪失させ人手が流出してしまうかもしれません。
そのため、上司と部下の対話を通じて目標を共有し、結果だけでなく取り組む姿勢や努力にも目を向けることや、PDCAサイクルを実践し支援する取り組みが重要です。
情シスの適切な目標設定は、部下のモチベーション低下を防げるだけでなく、本人の成長意欲を掻き立てて継続的な成長を期待できるようになります。
しかし、情シスは企業の根幹を支えているからこそ、「なにかあってから対処すればよい」では済まされない業務です。企業の成長を重視しすぎると、目標設定も高くしがちですが、社員が増えれば増えるほど情シスの各担当者に掛かる負担は大きくなります。
そのため、自社のITリソースを冷静に振り返ったうえで、「情シスの現実的な目標設定では求めている規模感に追いつかない」「ITリソースが圧倒的に足りていない」などの課題を感じたときは、専門のアウトソーシングサービスを利用してみるのもポイントです。
「トータルITヘルパー」では、100名を超えるプロによる情報システム部門のサポートを行っております。ヘルプデスク対応など対応時間や手がかかる業務を外注いただければ、「企業のコア業務」に貴重な自社のITリソースを注力することが可能です。
企業の情報システム部の業務のサポート、もしくはすべてを引き継ぎ・運営を行うサービスですので、興味をお持ちいただけましたらぜひお気軽にお問い合わせください。